私は、ストレスとプレッシャーの違いだとか、ストレスに押しつぶされるなと、如何にも精神的に強そうなことを言っていますが、決して楽天的なほうではありません。
涙を流すくらい辛い日々はしばしばですし、眠れない夜はほぼ毎日と言っても良いことでしょう。
楽天的どころか、自分ではうつ病ではと思えるくらいに悲観的であり、気持ちの小さな人間です。
しかし、誰でもそうですが、自分と他人を比較しても仕方ありませんし、他人がどれほどまでに強いのか弱いのかなどということは実はそう簡単には判らないのです。
自分が世界で一番弱い、一番不幸だと考えてみても、それは単に自分だけが考えていることです。そのような人に、もっと弱い人やもっと不幸な人がいると言っても始まらないことでしょう。
しかし、経営者という仕事をしていると、どんなに自分が弱くても、「はい、私は弱いです」とは言えないのです。言えないどころから、毎日のように「私は弱いのです」というようなことばかりが聞こえてきて、そのような人の話を聞いてあげなければならないのです。
時には、「こっちだって泣きたくなるよ」と言いたいのですが、目の前に泣かれている人を見ると、自分が強くならなければと、気を張って生きなければならない職業なのです。
その職業を選んだのは自分ですか、自分を責めても仕方ありません。そんなことよりも、このブログを読んでくれている社員のうちのほんの何人かだけにでも、少しだけでも勇気が持てるようになってもらえたら良いなと思っているのです。
私は、ストレスやプレッシャーを感じた時、以前、テレビで見た長嶋茂雄の言葉を思い出すことにしています。
長嶋は選手時代、「こんなに緊張感する良い場面で野球が出来るなんて、何て幸せなんだ」とプレッシャーがかかる打席、すなわちチャンスの時の打席に立てる喜びに感謝したそうです。そして、プレッシャーを感じる場面に感謝することで、乗り越えようとしたのです。
長嶋も私たちと同じ人間です。長嶋だから緊張しないということはありません。誰でも緊張してしまうのが当然ですが、それを、意識して、意図的に良いことと受け入れるようにしたのです。
意図的にです。意図的に意識して、前向きに考えるようにするのです。しかも、何回も何回も、あたかも訓練するかのように、繰り返し行うのです。こうして、精神力を高めるのです。
人は、不安な気持ちになるのは、自分が不安になるような考え方をしているからです。不安になっても、そういう考えを止め、意図的に変えることができれば、不安な気もちを消すことができるのです。
多くの人は、それをやろうとしません。しかも、不安になるような考え方がクセになっている人も多いと思います。そしてそのような人は、どうしたそこから逃げ出せるか、どうしたらそのような場面に出会わなくても良いかを考えるようになっていくことでしょう。
長嶋がなぜチャンスに強かったのか。その第一の理由は、チャンスという場面に恵まれる運の良さが誰よりも多かったということです。
では、なぜ運の良さが誰よりも多かったのでしょう。それはきっと、チャンスになった場面に出番が回ってくるというのではなく、出番が回ってきた時にそれをチャンスとして捕らえるようにしたのだと思います。
そして、自分が出番として出た時には、「ここで良い結果を出せばきっとチームが勝てる」と、いつでも意図的に前向きに考え、場面をチャンスに、チャンスを結果に変えていったのでしょう。
そして、結果がでれば、やがてそれは自信に繋がります。「きっとまたこの場面でも打てるはずだ」とさらに前向きに考えることができるようになるでしょう。そうすることで、また良い結果が生まれるのです。
それに対し、嫌だ嫌だという気持ちでいると、その予感通りに嫌なことが起きるものです。不思議なことに経営者という仕事をしていると、この直感はずばり的中するようになります。
上手く行かないかもと思って行動すると、必ず上手く行きません。必ず上手く行くはずだ、何として上手く行かせると思うと、その思いが強ければ強い時ほど、その通りに上手く行くものなのです。
先日、ベトナムにおいて、人生で最も大きな契約に携わることができました。
最初に情報に接した時は、怪しい情報かもと思いました。しかし、もう少し詳しく調べてみると、怪しい理由が見えてきて、パーっと霧が晴れるかのように信用できる情報になって行きました。
やがて交渉を開始した時は、これは単純ではないと思いました。しかも、相手は相当に手ごわいと感じたのです。結果、その通り、交渉は難航しました。
しかし、不思議なことに、パーっと霧が晴れた時の気持ちがずっと記憶に留まり、「これは間違いなく上手く行く」と感じるようになっていったのです。
予想通り契約日当日まで、交渉は継続し、ギリギリまで情報は二転、三転しました。周囲の人は、何度かここで止めよう、あるいは最後には諦めるというような雰囲気が漂っていました。
でも、私には、何か確信を得たような括弧とした自信とやる気に満ちていたのです。このような状態になると、リーダーである私が、様々な国の外国人も含む何十人もスタッフを、強引なまでに引っ張る以外にありません。
くじけそうで、負けそうで、泣きそうなスタッフを力ずくで引っ張りました。前日の夜中まで作業をしたスタッフも、交渉途中で泣き出すスタッフもいました。でも、今回の交渉は、私にとってトンネルの中にいるような気分ではありませんでした。
少し迷いかけた迷路のような場所でしたが、必ず出口があるいんちきな迷路ではないと確信していたのです。
確信した理由は明確ではありません。あの時の、パーっと霧が晴れた時の気持ちは、走者満塁の時に、私がバッターボックスに立てたような気分と同じだったのです。
観衆の声が聞こえるような気分でした。調印式で乾杯している様子が目に浮かびました。つまり、その時はプレッシャーもストレスも感じず、ただバッターボックスに立ってホームランを打つことだけを夢見ていたのです。
これまでの職業人生で、最も感激した仕事だったかも知れません。一生忘れることのできない貴重な経験でした。この経験によって、私は、もっと大きな舞台でもホームランを打ちたいと思うようになったのでした。
(次回に続き)
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