数週間前、京都大の依田高典経済学研究科教授と西村周三副学長らの研究グループが、禁煙に成功した人としない人との違いについて研究した内容を発表した記事を見つけた。
それによると、日本人成人約700人を選び、禁煙実験を行った。5ヶ月後に禁煙に成功した人は、約半数の52.8%である。
彼らを行動経済学の手法で分析し、禁煙にした成功した人と失敗した人それぞれに、将来の利益のための忍耐度を調べた。
それによると、 「いますぐもらえるお金と、1年後に90%の確率でもらえるお金」を比べたところ、禁煙に成功した人は、いますぐもらえるお金の平均1.83倍のお金があれば、1年間待てると回答した。
それに対し、禁煙に失敗した人たちは、平均で2.53倍以上ないと1年後まで待つことはできないという結果になったそうだ。
このことから、二つのことが判った。一つは、禁煙成功者は、禁煙に成功することができるだけあって、忍耐強い傾向を持っているということである。
二つ目は、忍耐強い傾向が強い人ほど、目先の利益より将来の利益を重視し、その逆に、将来の利益よりも、目先の利益を重視する人ほど、忍耐強くないという傾向が見られたそうだ。
この話を先日、タイ人と話をしたら、面白い話を聞くことができた。
「私が知っているほとんどのアジア人は、目先の利益を優先する」そうだ。
タイ人は、昨日の友を今日の敵にし、今日の敵を明日の友にするくらい、その場、その時点で最も自分にとって有益と思われるほうを選択する傾向があるという。
さらに、目先の利益を優先すると言えば、中国人、韓国人、ベトナム人がその代名詞だそうだ。
中国人は、取れるところから取れるだけ、しかもできるだけ短期間でという考え方がある。韓国人は、そもそも我慢する事に価値を認めておらず、我慢をしてまで将来に期待する意味がないと考えるらしい。
そしてベトナム人は、世界で最も楽観的な人種と言われ、将来のことは将来考えれば良いとの思想であり、見の前のことをおいてまで将来のことを考える必要はないと目先の利益を優先する。
彼らは、将来何が起こるか判らないものに期待するよりも、今すぐに最も近く、最も容易に手に入る方法を選択するのだ。
そのタイ人は、「日本人ほど、目先の利益よりも、将来の利益を見据える人種はない」とのこと。
そして、彼は、「我慢強く、忍耐強いのも日本人だ」と続けた。
私はかつて『辛抱と我慢』の中で、『辛抱と我慢。未来のためなら辛抱できるが、不満のためには我慢できない。これが私の回答である。』と書いた。その中で、私は、『辛抱強さは、誰にも負けないつもりだ』と書いている。
私は、今のために我慢することはできないが、未来のために辛抱することは誰よりもできると自負している。
さて、鹿を逐う者は山を見ずということわざがある。
鹿を撃つことに夢中になっている人は、鹿の姿しか頭にないため、山にいながら山全体が目に入らずに道に迷ったりすることがある、という意味だ。
目先の利益ばかり追いかけていると、ほかのことまで気を回す余裕がなく、大きな利益をつかみ損ねたり、小さな利益のために大きな失敗をするということである。
私は、経費削減や人員削減などのコストカットを否定しないが、それを行うのは、マイナスを消すことで、目先の利益を生む手段にしか思えない。マイナスを削減することは重要なことだが、プラスを生むことがどんなに難しいか、将来の利益を考えた経営も重要である。
将来の利益を生むには、投資以外にない。経営とは、投資の連続であると言っても過言ではないであろう。投資ができなくなれば、そこで止まる。止まれば、後は、身を削るだけだ。
マイナスを見直し、プラスを伸ばす、この何れか一方だけを進めても、それは決して経営とは言えない。目先の数値を良くするだけの短絡的で、かつ理想のないやり方である。
このような考え方は、経営者だけでなく、営業マンにも言える。
私は、これまで多くの営業マンを見てきたが、成績の良い営業マンは、粘り強い。そして、簡単には諦めない。逆に言えば、諦め易く、粘ることができない人は、総じて、営業力が弱い。誤解してほしくないのは、しつこいのと、粘り強いのではない。
私が言う粘り強いというのは、しぶとい、打たれ強い、へこたれない、くじけない、あきらめない、根気良く、そして、何と言っても忍耐強いということである。
冒頭で、忍耐強い傾向が強い人ほど、目先の利益より将来の利益を重視し、その逆に、将来の利益よりも、目先の利益を重視する人ほど、忍耐強くないという傾向が見られるという話をした。
本来、営業マンというのは、目先の利益を追うような職業に見えようが、実際には、人間としての信頼関係を構築するという将来の利益のために行動しなければ、数字がついてこないのである。
つまり、粘り強い人ほど営業成績が良いということは、目先の利益よりも、将来の利益のために行動しているのである。
そして、その逆に、営業成績が悪い人は、目先の利益を優先し、将来の利益のためには行動しない。すなわち、粘り強くなく、諦め易い人である。
これは、私の経験論である。だから、タイ人が言う目先の利益を優先するタイ人、中国人、韓国人、ベトナム人には、この論理が必ずしも通用するものではない。現に、アジアが世界中の中心になりつつあり、その中でも稀だと言われる日本人の我慢強く、忍耐強く、将来の利益を追いかけているようでは太刀打ちできないのかも知れない。
しかしそれでも、私は、何人がどうだということに関係なく、目先の利益を追求し、将来の利益のために行動できないようでは、鹿を逐う者は山を見ずというように、何れ、大きな利益をつかみ損ねたり、小さな利益のために大きな失敗をするということになると確信している。
しかも、私は、コストカッターと称し、マイマスだけに注目し、プラスを伸ばせないようでは、それが例え日本人でも、タイ人、中国人、韓国人、ベトナム人に関係なく、決して企業を成長させることはできないと思っている。それは、辛抱強いだとか粘り強いとかという曖昧なことではない。
目先の利益よりも、将来の利益のために行動できなければ、必ず目先の一瞬の鹿に目をくらみ、山を見ることができない経営者であることには間違いない。
私は、鹿を逐う者は山を見ずというような経営者にはなりたくない。そして、マイナスを削ることよりもプラスを増やす生き方をしたい。それが、将来の利益になると確信する。
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